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2008-04

男が惚れる「吉實」吉澤 操2

操3


一年後の同じ百貨店の同じ催事で再会したとき、吉澤さんは完成したボクの蕎麦庖丁を持って来てくれた。

そしてその場で、「ほし野」と刻印してくれた。
忘れもしない名セリフと共に。

左手には名入れするための釘のような道具を持ち、右で小さな金槌のようなものを握る。このとき、右足の親指と人差し指で庖丁の柄を鋏み、庖丁がずれないように固定する。金槌でこんこんとその釘のようなものの頭を叩きながら、ハガネの表面に名前を刻んでゆく。仕上がりの美しさ、達筆さ? に舌を巻き、

「凄い! いったいどうしてそんなことが出来るんですか!」

こういう場面で、いやあ~それほどでも、と謙遜するのは凡人である。そのとき、吉澤さんはこう言った。

「そうだよね。俺だって普段文字は右手で書く訳だよ。でも、庖丁に文字を刻むときはこうやって左手を動かして文字を描く。長いこと同じ仕事を続けていると、こんなことが出来るようになる。職人て、不思議だよね」

しびれた。

昨日、4本目の吉實庖丁になる出刃にまた名前を刻んでもらった。

操4


黙々と砥石に向かい、時々刃の立った塩梅を確かめるように眺めている吉澤さん。

「このくらいに仕上がっていますから」

操5


と新聞紙の面に平行に庖丁を動かす。
まったく力を入れていないのに、新聞の凸の面ががすうっと切れてしまう。

「こんなもんでいいですか?」とにやり。

集中からが解放されたように最後は会心の笑顔。

強面の男のこうした瞬間に,ボクはメチャクチャ弱い。



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男が惚れる「吉實」吉澤 操1

操1


櫻が満開だった3月26日の東京。
お逢いしてから、かれこれ12、3年になる庖丁職人の吉澤操さんの店を初めて訪ねた。東京都江東区亀戸7丁目の吉實(よしさね)である。

「東京もういいや」というような想いもあって、両親東京、三歳から横濱人の僕が、かねてから人間の居場所はこっちだと思っていた北海道に移り住んで16年になる。

でも、当初から札幌の百貨店で毎年開催される江戸の催事にはたいがい足を運んでいた。

老舗。職人。蕎麦屋酒。

離れてみるとがぜん輝きを放って見えた江戸的なものへの想いは年々深まり、これだけはまったくの誤算だった。

件の催事で見かけていた、惚れ惚れするような口上のその人が吉澤操さんであった。いまよりもっともっと強面で、話は滅法面白いのだが、安直なことを言ったら怒られそうな侠気溢れたその人となりに僕は魅せられた。誤解を恐れず言えば、そこにいるだけで、人に緊張感を覚えさせるような男には、昨今の日本男児をどう見渡してもそうお目にかかれるものではない。しかも、その凄みの狭間から、えもいわれぬ優しさ,愛くるしさ、やんちゃさのようなものが見え隠れしている。

札幌の百貨店のある年の催事の会場で、他のお客がいなくなったのを見計い、僕は勇気を出して吉澤さんに切り出した。

「蕎麦包丁が欲しいんです」

江戸東京の老舗、銘店の和食屋蕎麦屋のみならず、札幌の優秀な料理人がこぞって吉實の庖丁を使っているのは後から知るのだが、吉實の先代、吉澤さんの父上が江東区の無形文化財に認定されている方である、というのはもっと後から知った。

【『吉實』は、正確には「東京都江東区無形文化財指定店」であり、長男操さんの父上は、その「保持者」である。さらに、重要無形文化財指定の技術等の保持者として認定された者がいわゆる「人間国宝」と呼ばれるのだ! 】

操2

 
吉實の店舗は、東武線の亀戸水神駅から、咲き乱れる櫻が連なる公園を抜けたあたりの商店街にあった。見過ごしてしまいそうな間口の店先で、吉澤さんは砥石に向かっていた。

「いらっしゃいまし。よく来てくれましたね」

3月26日はお使いもので日本鋼の洋包丁を一本購入した。
昨4月7日はそのとき選んでおいた自分用の5寸の出刃を引き取りに行った。

3月末のときは時間がなかったからだ。なぜなら、吉澤さんから庖丁を分けてもらうときの喜びは、未完成の鋼(はがね)が、目前で刃を立ててもらい、さらに名を刻んでもらい、自分の道具、自分の庖丁に生まれ変わって行く様子を目撃する事にあるからだ。

今ボクは、蕎麦、柳刃、洋庖丁、そして今回の出刃を含めて4本の吉實の庖丁を持っている。その一番最初が、身の程知らずもはなはだしく、名うての職人さんですら納品を心待ちにしている吉澤さんに、蕎麦庖丁をあつらえてもらった10数年前の一軒だ。

一度はご丁寧なるお断りをいただた。
ところが、吉澤さんのはからいで毎年浅草三社祭に神輿を担ぎにくる、吉澤さんの大の仲良しである札幌の「おでんの一平」店主・谷木さんをボクが存じ上げていた偶然によって、急転直下のオーダーメイドが実現したのだった。

ボクはボクで、日常の仕事の中で、蕎麦職人さんに取材の機会があった際にお許しをもらい、その方の庖丁を触らせてもらい、型を紙になぞらせてもらったりしながら、自分に合う形、大きさ、重さ,バランスなどを模索、吉澤さんとの「庖丁の図面」の「文通」を通して、一年がかりで庖丁をあつらえるという体験をした。

操2b





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