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2014-11

あのひとのこと。

僕が大学四年生か五年生の夏のこと。
もちろんまだ、横濱市民だったころ。

函館を訪れるたび、朝市でイカ徳利を売っていて、いきなりスペイン語で話しかけてきたりする名物おじさんの編笠屋さんに挨拶をするようになっていた。その日も「こっちへ来な」と言われて、彼の隣にぺたんと座らせてもらって、お茶などご馳走になりながら、彼と観光客との可笑しいやりとりをしばし楽しみ、自分だけちょっと別格みたいで得意な気分だった。

少しすると朝市全体がなんだか騒然としてきた。観光客のみならず、地元函館の人たちも突然右往左往し始めた。よくよく聞いてみると、高倉健さんが朝市で映画撮影をしているという。健さんをひと目見ようとする人たちが「あっちにいた」「いやこっちだ」と色めき立っていた。

僕も映画ファンであり、数年前に観た、同じ北海道を舞台にした名作『幸福の黄色いハンカチ』の “あの” 健さんをこの目で見たい気持ちは山々だったけど、元来がひねくれ者なので、どうせ行っても黒山の人だかり、群衆の中のその他大勢のひとりなんて面白くないし、第一それは健さんの撮影の邪魔になるだけじゃないか、とハスに構えて、編笠屋さんの隣にいる幸運の方を選んでそこを動かなかった。内心はちょっと残念だったのだけれど。

その晩同じ民宿に泊まっていた三重県からの女の子と、宿の夕食の後、散歩に出た。
元町界隈の観光名所、ハリストス正教会あたりを裏手に入り、昼間の観光客はここから逆に海の方を眺めることなんてしないだろうと、やっぱりひねくれ者ぶりを発揮していた。

その時、街灯もほとんどない暗い夜道を、向こうから見覚えのある顔が歩いてきた。
大人がふたり、子供がふたり。高倉健さんと田中邦衛さん。北の国からの純くん(吉岡秀隆さん)と同じドラマでいい味出していた少年だった。その他には誰もおらず、どこからどう見てもプライベートな時間を散歩に興じていたのだ。あちらは人から見つめられることに慣れている人たちだったから、他に誰もいない夜道で四人と二人が遭遇しただけのことなのに、なんとなくお互いが会釈し合うような感じになった。

僕らの表情から察したらしく、「(健さんと)写真撮ってやろうか」と切り出したのは田中邦衛さんだった。僕は「いえ、そ、そんな田中さんも一緒に」てなことを言った気もするが、「いいんだよ」と言って田中邦衛さんは僕のカメラをひょいと奪い取り、ご覧の一枚になった。

健さん函館


その時、函館で撮影していたのは、敬愛する山口瞳さん原作、降旗康男監督の『居酒屋兆治』(1983年11月公開)だったことを後から知り、もちろん映画館に足を運んだ。

1983年秋は、卒業論文に倉本聰さんと山田太一さんをモチーフにしたテレビドラマ論『悪人のいない風景』を書いていた頃に重なる。大学で最初に知り合った男が北海道の中湧別町(当時の実家は遠軽)の出身で、一年生の夏休みから僕は彼の実家を拠点にさせてもらい、何度も何度も北海道を旅していた。

翌1984年春に入社した広告代理店での僕の初仕事は、これも同じ1983年に放送されていた倉本聰さん脚本のテレビドラマ『昨日、悲別で』の主役 天宮良さんの男性用化粧品CMへの起用だった。その縁で倉本聰さんにはサントリーオールドのCMに出演していただくことになり、以降、公私ともに北海道(特に富良野)との縁も深まったことが、1992年の僕の北海道移住に大きな影響を与えたと言わざるを得ない。


倉本聰脚本、高倉健主演の『駅STATION』は1981年公開。増毛や雄冬を訪ねたっけ。
『網走番外地』に始まり、『幸福の黄色いハンカチ』『遥かなる山の呼び声』『鉄道員』…僕らは北海道に立つ高倉健をたくさん目撃してきた。



さきほど高倉健さんの訃報に触れ、この写真のことを思い出して、クローゼットをひっくり返した。
この後、田中邦衛さんにも一緒の写真に収まってもらったのだけど、どうしても見つからない。
この時一緒にいた人たちは、高倉健さんの訃報をどう受け止めているのだろう。

健さんは風呂上がりの石鹸の香りがしたのを覚えている。


合掌。
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リンダの夜。


その人は昨晩突然現れて、
一本の薔薇を差し出し、
「これ、ピエールに」と言った。

リンダ1

小樽 嵐山新地『星の庵 風の色』の前身、札幌 狸小路『もっきりバル 風の色』の立ち飲みカウンターの王様だったピエールこと故 矢萩 肇は、その後現れたカウンターの独り客に次々と店でしか通じないフランス名前を命名した。

カトリーヌしかり、セバスチャンしかり。

先月、風の色のその後を知らず、めったに訪れることない小樽にたまたま飲みに来ていたセバスチャンと、花園銀座商店街でばったりと偶然の再会を果たした。その時、セバの苗字を初めて知った。

「これ、ピエールに」

昨晩突然現れて、一輪の薔薇を差し出しながら開口一番そういった彼女は、「もっきりバル 風の色」に何度となく訪れ、ピエールと交流していたことが続く会話で判明した。

自分よりもずっと年下のピエールが自分の話を優しく聞いてくれたので、私はピエールが大好きだった、と。

もっきりバルの店主だったホシノが、小樽でふたたび風の色をやっていることを最近突き止めたので、ホシノなら何かしらその空間にピエールの痕跡を残しているに違いないと確信して、ピエールの話がしたくて札幌からやってきたのだという。

この女性は、狸小路のピエールのカウンターの仲間入りがしたくて、みずからリンダと名乗ったらしい。

リンダ2

リンダは、大江戸セット等いくつかの星の庵の品書きを日本酒中心に楽しんでくれた。少し前からやっていた星の庵の常連さんに、自分が注文した風呂でいただく湯豆腐をおすそ分けしたりと、すぐに新生風の色に馴染んでくれたようだった。

座った席の背後の額にピエールの遺影が収まっていることを知ると、奴に向かって杯を掲げる仕草をしていた。

そうしてしばらくして、独り言みたいに言った。
「やっぱり星野さん…思った通りだった」

今日のためにリンダは小樽にホテルをとってあるからと、終電に乗るために慌てて店を出た常連さんを尻目に、ゆったりと星の庵の時間を楽しんでいるようだった。

「今日の最後に、ピエールの思い出に」

そう言ってリンダは、奴の好きだった白ワインと奴の商っていたマルシェ・ド・ピエール(究極のドライフルーツ!)を注文した。

「今日は来て良かった。
 ピエールにも逢えたし。
 また来るね」

そう言って日付も変わる頃、美味しいウイスキーが飲みたいという彼女は、僕が教えたご近所の正統派バーに向かった。

ピエールによる命名ではなく、自ら付けたリンダという名前はフランス名ではないと思うけど、いまだにリンダが何さんなのか、風の色の店主は知らずにいる。

金曜の君。

星の庵のお客様の中でもとりわけ “粋” を解する方だとお慕い申し上げている。
金曜日に着付けの会があるとかで、お仲間と夕食をとったその後にふらりとお一人でおみえになる。

何度目かにいらしたとき、着こなしが素敵なのでそれを伝え、僕も和服が大好きですとお話ししたら、その次に訪ねてくださった時に、

「主人は着なくなったから」

と丹前や長襦袢、兵児帯までも含めた藍の着物と浴衣をくださった。モンゴルの話が弾んだことがあって、その次にはモンゴルの酒器を譲ってくだっさった。

寺山着物

ここで口にした炭仕込みの桐箱でいただく焼き海苔を気に入って、父の実家である、渋谷区広尾は星野園の海苔を十帖も買ってくださった。

最後にいらしたのは小樽からようやく雪がなくなった頃と記憶しているので、おそらく七、八ヶ月ぶりだろう。扉が開いて黒いショールと薄紫の着物が目に飛び込んできた。

八月の小樽堺町 浴衣風鈴まつりのコンテストで優勝したことを報告したりしているうちに話が弾んだ。

母親の料理や漬け物の味を次の世代に伝えることについて。冬至にかぼちゃを食べ、柚子湯に入る等の日本の習慣、歳時記について。

今のお嫁さんや若い人はそういうことに興味がないよね。これじゃおふくろの味や日本の習慣は途絶えちゃう、と。そんな日本の歳時記の話から、酒器の話題へ。

瀬戸ぐい呑み

写真の漆器をお見せして、その作家であり、二十六年にわたる不思議なご縁の輪島の瀬戸國勝さんが、毎年一月の札幌の百貨店、丸井今井恒例「加賀老舗展」と同時開催で長年個展を開いていることをお伝えした。

金曜の君は「加賀老舗展」には欠かさず足を運んでいらっしゃるということで、今度の正月には金曜の君と瀬戸さんが札幌で顔をあわせることになるかもしれない。

星の庵訪問にたいそう時間が空いたのは、身体の塩梅があちこちよろしくなかったからだそうで、とりわけ心臓に問題があるのだという。

大事にしてくださいね!
僕は思わず声が大きくなった。
この人が大好きなのだ。

「今日はいいものを見せてもらったわ。今度来るときは私の漬けた漬け物を分けてあげる。それとさっき話した、それは素晴らしい櫻の絵が表裏に描いてある、京都のぐい飲みも見せてあげるね」

ありがとうございます。
でもそれより僕はこの人の心臓が気にかかった。

「母も姉も心臓が悪くて、二人とも同じ六十七歳で心臓で亡くなったの。だからずっと気に病んできた。六十七歳が怖かった。でも、私は二人の年を超えたからもう大丈夫」

嵐山新地の裏小路に出ながら振り返りつつそう言って、金曜の君は今宵の満月みたいににっこりと微笑んだ。

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