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2015-11

叔母からの手紙。

洋子叔母の手紙

十一月一日は初秋に満百歳で逝去した祖母(亡父の母親)の四十九日だった。
残念ながら諸事情により僕は東京青山にある星野家の菩提寺の納骨に参列できなかった。

数日前、その日に会えなかった亡父の妹、僕の叔母から分厚い封書が届いた。

叔母のご主人は数年前にALS 筋萎縮性側索硬化症という重い病に襲われた。

饒舌でビール党の叔父は、その凄まじいほどに進行の早い病のために、あれよと言う間に言葉が不自由になり、現在は頭と目と耳は確かだけれど、起き上がることも寝返りを打つことも言葉を発することも出来ない。

唯一動かせる足の指で特殊なパソコンに打ち込む言葉だけが、残された外界との意思の疎通方法だ。

長年俳句に親しんできた叔母に促されて、叔父は俳句に手を染めるようになった。この度届いた分厚い封書は、2013年7月から2015年10月にわたる叔父の俳句作品集だった。

俳句初心の叔父である。
その巧劣の問題ではない。

話すこととビールが何より大好きで、親族の集まりでは飲兵衛の先輩としていつも隣でご相伴した僕の叔父である。妻の(そして私の父の)実家のお茶屋や独立した子供達の自宅を設計した一級建築士の叔父である。突然想いもよらぬ残りの人生を生きざるを得なくなったひとりの男の叫びに突き上げるものを抑えきれなかった。

二年と少しの間に同人誌に掲載された叔父の膨大な俳句の中から、僕が徒然なるままに選んだ句と、ご友人、そして本人の短い文章と合わせてここに記す。

叔父はもう俳句の言葉でしかこの世の中と繋がることができない。それならば、少しでも多くの人たちに叔父の生きている証しを感じていただければと勝手に思った次第である。



呼吸器に 生かされてゐる 夜長かな

天高し 我は 丸太のやうなもの

秋深し 我が句打ち込む 足の指

手をつなぎ 歩きし日あり 十三夜



ジョンレノン 冬銀河より メッセージ

着ぶくれの 妻来てこころ あたたまる

麻痺の手に 主の御手重ねらる 聖夜



生きるための ときめき今も 春立てり

うららかや 笑顔素敵と 見舞はるる

春宵の ふと思ひゐる いのちかな

お見舞の 大きな籠の スイートピー

嗅覚を 失ひし 我春の霜

起き抜けの 新茶楽しむ 日々ありし

卯の花や 病得てより 年取らず

卯の花や 生きてゐるだけでいいと妻



梅雨しとど 山泣き海泣き 我も泣く

あぢさゐや 妻と旅せし 宝の日

打揚げ花火 腹に響くや 車椅子

娘二人の家を設計 百日紅

病床の 願ひは一つ 星飛べり



許されて するめをしやぶる 秋の宵

「あ」でも「う」でも声を出したき 夜長かな



私ごとで恐縮ではあるが、この句の作者 Aさんは、私の夫とは高校以来の親友である。一級建築士であるAさんは、現在難病のALSの闘病中。

毎日送られてくる『湧』への句稿を見ながら、夫は声をあげて泣くのである。声を出したくても、手足を動かしたくても、体中全ての筋肉が機能しない。この無念さを、悔しさを、親友として思うとき、止めどなく泣けてくるのだと思う。

微かに動くまぶたの瞬きで、文字盤を追い俳句を作り続けている。愛する家族や介護のスタッフに手篤く支えられて。

読み手である私たちは、Aさんの俳句から、感動や勇気をもらっている。


水たまり


手の動かば 本を読みたし 秋灯

連弾や 娘と孫や 木の実降る

鳳仙花 餓鬼大将と言はれし日

スカーフに 秋風を連れ 妻来たる

取つておきの 年酒を妻と 酌みし日よ


初夢や 建築語る 我のゐて


手をつなぎ 狭山丘陵 十九の春

早春や 一緒に生きる これからも

桜咲く 百歳の義母 祝ふごと

病得て 新茶楽しむ 時もなく

卯の花や 施設で暮らす 義母思ふ

小説に 読み耽りし 日桜桃忌



俳句を始めて二年弱になる。身動き出来ない私の体は、読むことも書くことも話すことも不可能。妻の読み聞かせが全てになった。歳時記を覚えることにも苦戦している。俳句が出来た時には何回も繰り返し覚え、唯一僅かに動く左足の親指で「伝の心」に打ち込む。俳句は昼も夜も一日中考えている。そしてなくてはならないものになった。



父の日や 向日葵抱へ 娘来る



妻が来る いつもの道の 秋日傘

盆祭り 大きくなれと ひよこ買ふ

秋時雨 義母の訃報に 祈りけり

穏やかに 百歳の母 逝きし秋

義母逝きて 思ひの募る 夜半の秋

妻のゐて生きる意欲の出づる秋

仲秋の 古曲に義母を 偲びけり

赤蜻蛉 出会いし人の 皆優し










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