罪深い人。

14年前から数年間、横浜から小樽に移り住んだばかりの頃。
春先の櫻の便りに、東京と北海道では一ヶ月以上の時差があることに愕然として、道南の松前に道内で一番早い花を愛でにいくことで、渇きを癒した。
250品種1万本。品評会のように、品種や開花時期の違う櫻が何ヶ月かにわたって咲き続ける松前に感激したボクは、4種類の櫻の苗を小樽に持ち帰った。
別途購入した平安枝垂れと合わせて、猫の額のわが家の庭に、5本の櫻が植えられた。櫻といえばコレ、の染井吉野。桃色の八重桜。珍しい黄緑色からピンク色に花の色が変化する御衣黄。そして、真っ白な八重は雨宿り。
さて、
移住以来、一度も外壁のケアをしてこなかったことを何人もの人に脅かされたけど、北海道に住むのにはお金がかかるなあ、とため息をついてこれまでほっておいた。今春、雨漏りやいろいろな要因が重なり、ようやく塗装する決意とともに、キッチンの改装も併せてすることになった。
外壁と共にもうひとつ脅かされていたのは、キッチンの至近に植えた雨宿りだった。あんなに建物の近くに植えたら必ず土台からやられますよ。櫻の成長と根っこの力をなめたらあかんぜよ。と。

ボクの家の食堂からは小樽の海が見えて、リビングからの山の景色とともに、今ボクがここに住んでいる最大の要因でもある。
真っ白な花を咲かせる雨宿りは、その海のある風景に彩りを添える、重要な一本だった。この十数年、何度春の心をなごませてくれたことか。
その雨宿りを伐らざるを得なくなった。
キッチン改築の設計はともかく、あのとき植えたどの櫻よりも、雨宿りは著しい成長を遂げた。近年、素人目にも土台の心配をしなくてはならなくなった。
恥ずかしいけれど、小さな小さな苗木がこれほど成長してしまうことへの知識というか想像力が欠如していた。

ボクの無知無計画が、一本の櫻の命を奪うことになった。
10月16日月曜日、今回の着工で、まず、真っ先に雨宿りを伐るという。
前日の日曜日、いろいろ調べると、櫻の挿し木は難易度が高く、接ぎ木の方が…ということが書いてあった。季節もどう考えても今の時期が適切とは思えない。でも、時間がなかった。
ボクは雨宿りの枝をいくつか切り、赤玉土と鹿沼土、発根を促す液体を購入して挿し木してみた。
月曜日、ボクは出勤を遅らせて作業に立ち会った。
3人掛かりで枝を落とし、幹を分断し、根を掘り起こす。
身を切られるとは、こういう感情のことをいうのだろう。
こんなことを書くのもなんだが、なぜか、
病室で父を見送った日の情景が鮮やかに浮かんだ。
胃の底の方に淀む不快感が三日経った今も続いている。
神様、ボクをお許しください。
お願いします。
なんとか、新しい命を。
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