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2021-04

前略、母上殿3

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昭和49年、HBC北海道放送制作の「りんりんと」は、自分の母親を老人ホームに入所させるために、東京から北海道の苫小牧までフェリーで旅する母子の旅の物語だ。

作者倉本聰さんによれば、これは子供が自分の母親を捨てる、いわば「姥捨て」の話なのだが、実は見方を変えれば、母親に捨てられる子供の物語なのだ、と。

この作品は、当時でいう老人性痴呆症の母親との凄惨なる闘病生活を送った、倉本さんの現実の体験が下敷きになっているという。ご母堂が亡くなられて3年経ってから放送された「りんりんと」は激しい反響を呼んだけれど、一方で、お茶の間で流れるテレビという媒体が取り上げるテーマとしてはあまりにも厳しすぎるという声も上がったという。限界を超えていると。その生々しさが薄れる時間としての三年を待ち、また、ご自身のご母堂が生存している間にはとても放送できない、という作家である以前の、ひとりの人間としての倉本さんの思いを込めた醸成期間を経てしてもそうした批判もあったのである。

そうした批判に対する、倉本さんの反省の上にたって書き下ろされたのが昭和50年の「前略おふくろ様」だった。山形出身、深川の料亭で修行中の板前サブちゃん(萩原健一さん)が、故郷の母親に折に触れて手紙を書いている。その手紙の文面がモノローグのナレーションとして全編を通じて展開する(タイトルの由来)画期的な手法は、その後の「北の国から」でも、純から母親への語りかけのナレーションとして踏襲されていた。ただし「北の国から」も、映画「駅」なども同様だけれど、「前略」以降、倉本聰のテーマの一つは「母親の不在」なのだと思う。

あくまで喜劇仕立て、面白おかしい登場人物たちによってにぎやかに進められて行く「前略おふくろ様」。しかしながら、この作品の底流にあるのも、実は「りんりんと」と同じ深刻で救いのない老人問題だった。テレビ媒体が許容する作りの中に、深刻で深淵なテーマを忍び込ませる壮大な試みをしたのが「前略おふくろ様」だったのである。

(倉本聰原作シナリオより)
「前略おふくろ様。
 オレはあなたの青春を知りません。
 ピチピチと若く、可愛く、恋をした、
 そうしたあなたの青春をオレは知ろうとしなかったわけでー。
 おやじと知り合い、愛し合い、
 そしてー
 それから、オレが全部始まったあなたの、昔の、
 そういう日のことをー」


ボクの父は18年前に亡くなって、母はそれからずっと横浜で一人暮らしを続けて来た。その間、一緒に住むことを母は頑として受け付けなかった。父が死んだ年の暮れに僕は母を連れて、北海道を旅した。その時、少ししか立ち寄らなかった小樽を、母はなぜか随分と気に入ったようだった。15年前、僕が衝動的に小樽に住むことを決めた時、母は少しだけ迷ったようだったけれど、結局一人暮らしを離れなかった。

3年前、横浜の実家の一軒屋を売却したときも、今度こそというタイミングがあったのだけれど、母は横須賀のマンションで独り暮らしを続けることにした。

この夏、たまたまお盆に母に電話をしたら、
  「知らない女の人が家の中にいて、
   もう何日も帰ってくれないの」
と、母の口から衝撃的な言葉が飛び出した。
僕にとっては、まったく唐突なことだった。
それが幻覚幻聴なのか、脳溢血などの前触れなのか、何の知識もない僕は、とるものもとりあえず帰省して病院に連れて行った。今年の暑かった夏に母はエアコンのない生活をしていたので、自分の家にもないエアコンを母親のために買ってやった。その二週間後、通院していた病院の精神科に母はあれよあれよという間に入院してしまった。

「認知症」。かつての「老人性痴呆症」を最近ではこう呼ぶ。
8月お盆から今日まで、僕は小樽と横須賀を6回往復した。

今日、これから僕は飛行機に乗って母を迎えに行く。
もう一人暮らしには戻れない横須賀の母を、認知症の高齢者を扱ってくれる、北海道小樽のグループホームに入所させるためだ。

捨てられるのはどっちなのか。

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