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2021-04

温泉のジョン・レノン。



15年ほど前、まだ都内のアパートに住む横浜人だった頃。

翌日に予定のない男同士で金曜日の酒を飲みながら、
このまま何も起きなければ、
イブは温泉もいいだろうという話になった。
その年も確かクリスマスは週末だったのである。

広告代理店でメディア担当の後輩キタゴーとむなしく盛り上がりながら、
長身で色男のくせに多分予定のないであろうテラオにも電話をして、
クリスマス仲間を増員した。
大学の同期生だったテラオは、
在学当時は鴻上尚史主宰の第三舞台(同じ頃同じ大学にいたのです)で
芝居をしており、化粧して六本木を歩いているようなとっぽい男だった。
12月23日の晩はそうして過ごした。

昨晩からの流れで、その年のイブは、
かつて僕が住んでおり、
その時はキタゴーが住んでいた、
西早稲田の6畳ひと間のアパートの部屋で目覚めた。

待ち合わせの駅に向かう前、
テラオから急きょ行けなくなったと連絡があった。
午前中に医者で痛風であることが判明して、
温泉どころではなくなったという。
完全に露天風呂モードに入っていた僕とキタゴーは、
もう酒の飲めない身体になっってしまった!
と嘆くテラオの深刻さをまったく理解しようともせず、
また、15年後に自分にも降りかかる災厄とも知る由もなく、
医者に行くのが来週だったと思えば、
今晩だけ飲んだって態勢に影響はないだろうと引き止めた。
だって、どうせ昨日までは飲んでたんでしょ、と。
しかし、日頃知っているテラオらしくなく、
その日の彼の決意は非常に固かった。

東京から列車とバスを乗り継いで4、5時間、
築百年を越える那須の「北温泉旅館」のクリスマスイブは、
だから、結局、また男二人だけになった。

渋い客室での夕食や、
プールほども広い露天風呂に浮かれながら、
否応なくハイピッチで進む酒のペース。

夕方から降り続いていた雨。

予感はあった。

ありったけ持ってきて、ずっとかけ続けていた音楽テープの中に、
かの山下達郎の名曲はあったかどうか…。
その晩「クリスマスイブ」の歌詞通りに、
雨は夜更け過ぎに雪へと変わり、
男二人の温泉のイブは最高潮に達したのである。

そうだ。
テラオを悔しがらせてやろう。

客室のテレビでやっていたのは何の映画だったか…。
とにかく、
同じ文学部演劇専攻だったテラオが、
その晩観ていないはずはない作品だった。
その映画のエンドロールが終わるか終わらないかのタイミングで、
テラオの自宅に電話をかけた。

「もしもし…」

テラオの声だ。
その瞬間、僕ら二人は

「メリークリスマス!」

とか、

「こっちはホワイトクリスマスだぜい!」

とか叫びながら、
受話器にラジカセのスピーカを押しあて音楽スタート!
曲はジョン・レノンの「Happy Christmas~戦争は終わった」。

(12月8日付け「屋台のジョン・レノン』参照)

全一曲を再生して、そのまま電話を切った。


翌朝、二日酔いの視野に入ってきたのは予想外に積もった大雪。
まだ、早朝である。
大変だ。
こいつは早いとこ、露天に直行だ。

本州の人間、街場の人間は、ホワイトクリスマスにめっぽう弱い。

そのとき、僕はわが目を疑った。

きしんだ扉を開けて、テラオが現れた。

ジョンの歌声が効きすぎて、
テラオは未明、クルマのハンドルを握った。
北温泉に続く峠の道で雪のためにクルマを乗り捨て、
それでもここまで自力で到着した。

肩に雪を積もらせ、
白い息を吐きながらテラオが言った。

「メリークリスマス!」christmas.jpg

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