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2021-04

風にそよぐ藤の…

藤

母の旧姓は藤尾という。

漱石の虞美人草にも藤尾なるプライドの高い女性が登場する。こちらは名前のはずだが、昭和8年生まれの母も気位の高い人だった。

19年前に父が他界して以来、母は横濱で一人暮らしを続けて来た。平成16年11月に父の建てた家を処分したときも、ひとり息子の私がいる小樽に身を寄せることはかたくなに拒否して、横須賀のマンションに移り住んだ。平成19年のお盆に幻覚幻聴が出たと私が気づいた時には遅かった。9月に精神科に入院してはじめて、マンションの住民の証言で、そこに住み始めた当初から怪しい言動があったことを知る。情けない話だ。

二度と一人暮らしには戻れない。
そう言われて、現実が襲いかかる。

平成19年11月、横須賀の病院からやっとの思いで小樽の施設に連れて来た時、母は物理的には自分の近くに来てくれたが、私の中では母を失った想いが強かった。かつての気位の高い母はそこにいなかった。ただ、わずかばかりの安堵感があった。

平成20年、昨年の4月、そうした束の間の安堵を突き破るように、母が施設で転倒して大腿骨頸部と肩を激しく骨折する。大々的な手術の後、母は目に見えて歩けなくなり、急速に日常生活のモロモロが出来なくなった。

それでもまだ昨夏は、母が自力で食べ物を口に運ぶのを見た気がする。夏から秋へ、秋から冬へ。母は歩くことは愚か、自分で食べることも、用を足すことも、歯を磨くことも出来なくなった。
それと平行して、どんどん一人息子の私のことを分からなくなって行った。私はふたたび母を失った気がした。

平成21年3月。精神科の主治医から、咀嚼の能力が著しく低下して来ているので、ほど近い将来に口からモノを食べられなくなる。身体に通した管から栄養分を吸収させるしかなくなるだろうとのこと。それは同時に、医療行為を施すことの出来ない認知症専門の施設、グループホームからの退去を意味していた。

そうした矢先、出張で東京にいた4月の上旬、母がベッドから落ちて医者に担ぎ込まれた旨、私の元に連絡が入る。さらに、大事を取った脳神経外科のCTスキャン検査で、母の脳に水がたまっていると判明した。

この「水頭症」が元で起きる認知症もあるそうだが、母の場合はレビー小体型認知症と言われている。アルツハイマー型だとか、パーキンソン病的症状が現れ出したとか、いまだによく理解できないが、最近は手足に痙攣や萎縮の症状が加わって来た。そこに追い討ちをかけるように新たに水頭症が乗っかって来たのか、ますますよく分からない。


私が小樽に移り住んだ翌年、平成5年春。庭の隅に藤の木を植えた。花が咲いた状態のそれなりに成長したものを園芸市で手に入れたのだ。ところがそれから一度もその藤は花を咲かせなかった。来年こそ、いや、次の春こそ。そうこうしているうちに15年が経過した。蔓は元気よく先へ先へ。木は自作の藤棚が小さく見えるほどに成長し、毎年たくさんの葉が被い茂る。でも肝腎の花が咲かない。

昨春、断腸の思いで藤の木を切った。
しっかり、根こそぎ。
母が転倒骨折した少し後だった。



昨朝、手稲駅前にある渓仁会病院へ。
母の脳から水を抜く手術をすべきか否か。
小樽の病院だけの見立てではと、私の希望で紹介状をもらった。
頭蓋骨に親指大の穴をあけ、溜まった水の行き先のために開腹もするとなれば全身麻酔を伴い、精神状態からも肉体的状況としてもそれなりの覚悟が必要と、医師は合併症などを含めた手術のリスクを語り、後はあなたの決断ですから、と。

検査と診断の長い時間を終えて、外に出る。
久しぶりのおだやかな日差しが眩しく目を細める。
駅前の広場では園芸市が開かれており、その中に藤の苗木を見つけた。

微風に揺れる藤の花房に近寄ったそのとき、突然、眼球の奥のあたりが苦いような渋いような感じに襲われ、自分でも?と思っているうち、想いもよらぬ熱いものが突き上げた。

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