わたしの、はこだて3

この店で酒を飲まないのはかなりつらい。
お通し?に小皿が五枚も六枚も出て来る。
いや、親爺が興に乗れば、十枚だってくだらない。
イカゴロの和え物だの、ネギ味噌に出汁と卵を合わせたなにがしだの、ひと手間もふた手間もかけた逸品がさりげなくテーブルに乗る。これらは基本的に無料である。
こいつらでコップ酒が少なくとも三杯は呑める。
仕事じゃないときなら、昼までには出来上がってしまう。
なぜならここは朝市だからだ。
イカ刺しやイカソーメンがふるっていて、包丁の手元を見せるために、厨房に窓が切ってある。これは改装前に近いしつらえである。以前はもっと大衆食堂然としていたのだが、長屋の建物自体が何年か前に妙に立派になってしまった。最初は危惧したけれど、媚びない親爺と小皿の応酬は変わらない。
観光客に「ここで食ったらイカ刺しの概念変わるぞ」と窓からの観戦を促し、「な、うまいだろ」と相づちを求めるが口癖である。
店の名は茶夢。
ネーミングだけでは飛び込まない店だけれど、一度ここを知ったら、函館朝市で他の食堂には入れない。辻仁成の『海峡の光』にも登場する。
ここで酒を飲めないときは実につらい。
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