だるま湯終焉ーー風呂屋と焼き餃子6

これまでたくさんの番台小町にお逢いしたけれど、
これほど上品で美しい人は…

最後の最後の僕たちを、高村さんは出口まで来て見送ってくださった。どうかお元気でいてください。
だるま湯廃業と五香創業で思い出したふたつのエピソード。
10年ほど前、小樽の別の銭湯の最期に立ち会っていた。
そのとき僕は忘れられない光景に出逢った。
その銭湯の長年の常連と見受けた父親と小学校低学年の子供の自宅には、いまだ風呂がないらしいことが二人の会話で分かった。幼い息子は、親のしつけが行き届いているようで、脱衣籠の衣類はきちんと畳まれ、籠にふたをするように几帳面にバスタオルがかけられていた。その息子が父親に小声で言った。
「お父さん、僕たち明日からお風呂どうしたらいいの?」
小樽生まれの小関さんは、佐世保で中華料理の修業中に奥さんと出逢い結婚。小樽に戻ってすぐに五香(ウーシャン)飯店を開いた。それから今年で40年が経過した。
最初に五香を取材させてもらって何年かした頃だから、今から10年と少し前だろうか。奥さんが佐世保に帰省するので、一週間ほど店を閉めるという。それがなんと結婚以来はじめての帰省だというのだ! ほとんど30年ぶり?
だから小樽にいても、ずっと旅行でもしているみたいな気分だった。そんな意味のことを奥さんは言ったと思う。
その頃僕は横濱から小樽に移り住んでおそらく7、8年。道内のどこかに出かけて小樽に戻って来ても、まだまだ旅が続いているような気がしていた。小樽が新鮮だった。その気分と奥さんの言葉が重なり合って、もっと五香が好きになった。奥さんが素敵に思えた。自分も奥さんもよそから小樽にやって来て、まだ旅の途中なのだと。
それから今日まで、奥さんの佐世保への帰省はもう一度だけ、都合40年で二度きりだという。

五香の定休は毎週月曜と元旦のみ。
大晦日まで働き、正月二日から通常営業する。
営業時間は正午から午後七時。日曜と祝日は午後5時まで。それらの休みと奥さんの帰省以外で店を開けなかったのは、40年間でたった1日! どうにも熱が下がらず医者で点滴を打ったら少し楽になったので当人は店に出ようとしたが、さすがに止められた、その1日だけだというのだ!
頑張って住宅ローンが年内で終了するので、来年からは少し楽をさせてもらうことにした、という。そのココロは?と尋ねたら、
正月は二日まで休ませてもらいます、だって!
今年齢七十。今も現役のラガーマン小関は、五香は死ぬまで続けると心強い発言をしてくださった。小樽に五香があるのは、小樽の誇りだと僕は思う。
心から申し上げます。お身体ご自愛ください!
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