弥生三月東京日記4

(三月七日日曜日の続き)
昨年の十二月も先月も、雪のトンネルを抜け出して来た身からすると東京は妙に暖かく、天空にはこの天気しかない、というくらいにどちらの日も美しく晴れ渡っていた。
だから、小雨に煙る隅田川の風景をここから眺めるのは初めてのことであり、でも肌寒い景色もまた良しである。

それよりも句を仕上げなくちゃ。でも、天空のある駒形橋をはじめ、隅田川に架かるいくつかの橋や、そこを行き交う人や車を眺めたり、もうそれが日常になってしまったビール会社の驚天動地のオヴジェと、その斜め後ろの、訪れるたびに確実に背を伸ばしている東京スカイツリーの異様との対比に目を奪われてしまう。

天気のせいか、今日は集まりが悪い。
午後三時開催の時間ギリギリに現れた吉田類御大が僕の顔を見て「お、また遠くから来てるな」とひと言。今日の兼題『春愁』は、さっきまで昼酒をご一緒していた事務局の伊勢幸祐さんよるものだけれど、ご本人がまだ句を完成出来てないのを僕は知っている。
ジャーナリストの有田芳生さんや、小樽以来すでに何度もお逢いしている常連メンバーが次々と駆け込んで来る。

特に合図もないまま、それぞれが用意して来た句を短冊にしたため始めている。手慣れたスタッフがそれを回収し、手際よくシャッフルして用紙に書き移す。そいつを人数分コピーして、全員の句が手元に渡ると、各自が選句に入る。自分以外の句で一番良しとするものに天、二番目を地。伊勢さんがマイクで、四時までに選ぶようにとの案内をした。ご自分のは出来たのだろうかと耳元で尋ねると、さっきの北星さんとの時間をモチーフに即興で創りました、だって。

午後四時を過ぎて、端から順番に、自分が選んだ天地の句を述べてゆく。全員が終わると、天地が多く集まった句から、その句に一票投じた人が理由を述べてゆく。前回二月から、この際に披講する(句を読み上げる)のが僕の役割になった。参加三十人で六十句。大役だ。御大直々のご指名で、嬉しくも緊張する。

最後に作者が名乗りを挙げ、自分の思いを表明。では次に得票が多かった句、という塩梅で続けられる。その頃にはワイングラスも乾き始め、オードブルが次々運ばれて来る。

ワインが進むほどに、言葉が交わされるたびに、会が和やかな雰囲気に包まれ、隅田川が闇に沈み、入れ替わりに街の灯りがひとつまたふたつ。宵闇が小雨ににじむ至福のとき。

頬づえの 春愁の薄紅 瞬間の恋 北星
追記

今回はなんとなくそのまま解散ムードの強かった閉会直後、
「思いっきり遠くから来てくれた人もいるし、じゃあちょっと行きますか」と吉田御大のひと声で二次会へ。
句会の北海道支部設立のキーマンである北海道新聞社の岩本碇さんは、東京支社から三月一日付けで札幌本社勤務に決まり、残務整理と引っ越し、新天地デビューの超ハードスケジュールを縫い、風邪をおしての出席! 二次会の神谷バーで、女優の小桃さんと黒澤さん、両手に花の僥倖にもかかわらず…
だから碇氏は三次会のバーリィ浅草にはたどり着けなかった。
かくいう私も、バーリィ浅草まではたどり着いたものの、常軌を逸した日程の東京三日目にしてコックリ。ふと意識を取り戻したときには、「あ、ほら、北星さんが目を醒ました」と御大にからかわれる始末。ごめんなさい!
黒髪は 春愁の宴 風宿る 北星
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