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2021-04

両国の若松さん。

 

一昨年の春だったか、早朝に両国駅のガード下を歩いていて気になる店を見つけた。間口一間ちょっとの街のラーメン屋風なのにすでに営業しており、のれん越しにカウンターといくつかのテーブルだけのこじんまりした店内の様子が透けていた。

一番奥の左側のテーブル席に安焼酎とウーロン茶のペットボトルで盛り上がっている人たちが見えた。何となく朝から飲みたい気分だった僕はそれが気になって、一度通り過ぎたのに引き返したり、も一度中をのぞいたり。のれん越しに行ったり来たりしている挙動不審の男を、中の焼酎ウーロン茶割りの男たちが笑いながら観ているのも知らずに…

それから僕は上京のたびにそのラーメン屋に「飲みに」行くようになった。会社をリストラになった人や、健康を害して思うように働けなくなった人だとか、そうしたちょっと訳ありの年配者が平日の朝から飲んでいる。その店はナント朝四時半開店なのだ。

僕が10時ころ訪ねると、一番早い人がすでに5時間くらい飲んでたりする。朝9時に一度出勤した印刷会社の重役が、ネクタイ姿でかけつけ5杯飲んで、名物の鳥ラーメン290円なりをたいらげて仕事に戻っていったりもする。印刷屋さんは、うまい!としゃがれ声で叫び、やっぱりコレだよ、と豪快に笑う。そこは不思議で、ちょっと切ない男たちのたまり場だった。

朝四時半に店を開けてお昼には上がる若松さんは、この店の二代目店主のお姉さんの旦那。一昨年の時点で母と同じ75歳だったと記憶しているが、その数年前までタクシー運転手を50年以上続けていたという。初代が夜勤明けの労働者のために午前四時半から営業していたことに感じ入り、二代目ではなく、若松さんがその伝統をこの30数年にわたって受け継いで来た。だから若松さんのタクシー歴最後の30年は、午前四時に店に入り、昼まで中華鍋をふって、午後からタクシーに乗る。あるいはタクシーの夜勤明けに午前四時半から店を開け、昼から眠るという想像を絶する暮らしぶりだった。

営業中はずっと焼酎を飲んでいる。
昨年の6月に突然この店が閉店してしまうまでの間に僕はずいぶん通ったし、若松さんや常連さんと昼カラ(オケ)に出かけたことも2、3度以上ある。彼らのお供をしていると、太陽が高いうちに出来上がってしまう。なんて愚かで素敵な時間を浪費したことだろう。

この2年間、若松さんは場所ごとに相撲の番付表を送ってくれた。
ときどき携帯が鳴って、ごぶさただね、なんてご機嫌お伺いが来る。印刷屋のWさんは60代半ばの裕次郎が十八番のハスキーボイスで、若松さんから電話を奪い取り、「ホシノさんに逢いたいよ。あんた来ないと淋しいよ。また一緒に歌おうよ。北海道からいつくんのさ?」なんてひと回り以上、ふた回り以上も年上のじいさんたちがラブコールをくれるのだ。


ちょうど一年前に母が亡くなった朝、僕は訃報の電話連絡を親戚や友人、大切な人に混ざって、なぜか若松さんにしてしまった。平日の木曜日だったけど、そのときも隣でWさんが飲んでいて、電話を代わったWさんは、しゃがれながらも甲高いいつものトーンを少し落とし、お悔やみの言葉をくださった。


昨年6月の母の納骨の際の上京では、この店とさらに昼カラの店でも母(の遺骨)を抱いて若松さん、Wさんと飲んだくれ唄っていた。それが翌月の7月に訪ねたときにはシャッターが下りていた。二代目との壮絶な衝突で「上等だよ、明日から辞めてやら」ということになり、若松さんを失った二代目は半世紀続いた店をそのまま畳んでしまった。

そのときも、そのあとも、若松さんとは二度ほど昼酒のご相伴をしたけれど、やっぱりホームベースが失われて、ここのところはとんとご無沙汰をしていた。先代の頃から40年近くも通っていたという印刷屋さんは、朝酒の店を失ってさぞかし困っていることだろう。 


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北海道に帰る4月19日の朝、若松さんに久々に電話する。
ふたつ返事で若松さんは僕のいる浅草に駆けつけてくれた。
電話がつながってから正確に20分後。まだ午前中だ。そんな奴は友だちにもいやしない。

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再会を祝してホッピーで乾杯! 
正ちゃんの牛モツ煮込みは絶品だ。

呼びつけたみたいでスミマセン、と頭を下げると、母と同じ年齢の、頭に来たらヤクザでもぶっ飛ばしてしまう若松さんが言った。
「俺は好き嫌いがはっきりしてるから、嫌いな奴とは口もききたくないんだ。でも、俺はあんたが好きだから、逢いたいと思ってタクシー飛ばして来たさ。電話もらって嬉しかったよ。へへ」


IMG_0137.jpg

若松さんは年齢の割りに携帯電話を使いこなしている人だ。
突然、以前いっしょに唄いに行った富良野出身のじいちゃんに電話して、僕に電話を代わった。次はしゃがれ声の裕次郎、印刷屋のWさんにかけている。ご無沙汰の挨拶の後、「ええ!?」と大声を出した後、若松さんが神妙な顔付きになって僕に電話を代わる。聞き覚えのある声は、以前よりももっとしゃがれていた。

「おお、ホシノさんか! オレさあ、酒と煙草やり過ぎて、喉頭がんになっちゃったよ。放射線治療してるから、今日は会えないんだ。6月には治る予定だからさ、そんときゃ唄おうな。ああ、ホシノさんに会いてえなあ」


わがもっきりバルの三冷と違って、中外(ナカソト)のホッピーはきつい。正ちゃんのは特に焼酎の量が多くて、昼酒にはかなり厳しい。でも、この日に限ってはこちらの方が良かったような気がした。

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追伸
飛行機に乗り遅れました。



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