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2021-04

エミさん。




ちょいととっぽいエミさんは、僕が中学三年生の時から7年前までだから、ざっと30年間実家だった金沢文庫の家の近所の肉屋の一人娘だった。ふたつ年上だったはずだから、最初に会ったのはエミさんが高校生の頃だったのではないか。

当時でいう、少し「突っ張った感じ」の危なげな美人で、僕からするとちょっと近寄りがたい印象があった。背が高くて滅茶苦茶ハンサムな遊び人風の男とずいぶん早くに結婚して二女をもうけたのだけれど、離婚するのも早くて何かと目立つ人だった。両親の血を効率よく引き継いだらしく娘たちも小さいときから人目を引く際立った顔立ちをしていた。

僕の母は僕が幼稚園の頃から書道の世界にいて、三十代の前半に神奈川県知事賞なんていうものもいただいてからは、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍、ほとんど家にいなかったので、僕は小学校が終わると自分で鍵を開けて家に入り、夕食も作れるようになった。

エミさんと娘は、後年母が自宅で教室を開いてからは生徒になった。
離婚ばかりではなく、なにかと幸薄い感じのエミさんは、母よりも24、5歳も若いのに友達みたいな口をきいて懇意にしていた。

20数年前に夫を亡くし、一人息子の僕は東京で忙しい仕事に明け暮れた挙げ句に北海道に移り住んでしまい、実際、母は何かとエミさんの世話になっていた。身の回りのこと、愚痴や身の上相談、食事や酒のお相手等々。

7年前、僕の反対を押し切って金沢文庫の一軒家を引き払い横須賀のマンションに引っ越したとき、今思えば母は少しずつ認知症に蝕まれており、僕が北海道から手伝いで駆けつけた前夜にはまだ、茶碗のひとつも荷造りしてなかった。口は悪いけれど面倒見のいいエミさんの想像を越える働きでその引っ越しはなんとか成立したのだった。

横須賀のマンション独り住まいからちょうど三年。
母の認知症が明らかになり、あれよという間に横須賀の精神科に入院させることになった。それから母を小樽のグループホームに入居させるまでの4ヶ月に、僕は北海道と横須賀を10往復した。母の現在を息子の僕よりもよく知っていたエミさんに、なにかと質問や相談をしながら。

二年前の四月に小樽で母を見送った。
六月、神奈川県三浦海岸にある父が眠っている墓に母を納骨する際、親族以外では唯一エミさんが再婚相手と参列してくれた。昨年の一周忌も同様。年下の控えめな旦那さんはエミさんにぞっこんで、
「僕はぜんぜん飲めなかったんですけど、エミにずいぶんしこまれました。エミが酒を好きなので、僕も一緒に楽しめるように努力してるんです」。そんなことを言う優しい感じの人だった。

去年もおととしも、二人は車でやって来た。会食の席で母の話を親族に語りながら、エミさんはずいぶんと酔っぱらっていた。「電車で来れば二人とも飲めるのに」と僕が言うとエミさんは、「いーのいーの、こいつは運転。あたしが二人分飲むんだからいーの!」

来月母の三回忌と父の二十三回忌の法要を営むにあたり、ご案内にエミさんの携帯を鳴らした。電源が入っていないとのことで自宅にかけたけれど留守番だった。おとといの夕方のことだ。

昨日の早朝、電話で起こされた。寝ぼけながら応答するとエミさんの旦那のカズオさんからだった。「昨日電話貰いました? きっとまた今年もお母さんの法事の件ですよね。あの…おとといエミが亡くなったんです」

僕が電話した日だ。そのときエミさんは亡くなっていた?!

「僕が仕事から帰ると、もう冷たくなっていたんです」

自宅で転倒して、後頭部を強打したのが死因だった。
その結論に至るまで警察が来て検視、解剖まで行われたという。

一年にたった一度だけでも、会って感謝の気持ちを伝え、会食するのが長男として出来るせめてものことと思っていたのに…。

結局また、実の息子よりも早く、母の話し相手になってくれるのですか? でも、あんまり早すぎるよエミさん。

献杯。



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