蝦夷の蕎麦と東北の酒。
小樽市民としての二十年のうち十八回ほどの大晦日を過ごした蕎麦屋へ顔を出した。品書に東北の酒をラインナップすると聞いたからだ。

店主に尋ねるとまだ思案中とかで、品書に加わるのは来週以降らしい。とりあえず神田まつやでもそうするように、鳥わさとわさび芋を所望した。

自宅作業を抜け出して来たし、昼間でもあるし、東北の酒もまだだし、わが北海道根室の蔵、北の勝でちょいと口を湿らせてすぐに退散しようと思いながら本わさびを擦り下ろしたりしていた。

先日、浅草並木の薮が更地になっていた衝撃で再読している『江戸そば一筋』をぱらぱらめくりながら、北の勝をちびちび。二年に一度、江戸の老舗蕎麦屋を全従業員でめぐるこちらの若女将にもそんな話をしていたら、店主の差し金らしく、
「これが社長と板長のイチオシなんです。福島の蔵太鼓。喜多の華酒造場さんの純米ですね」
と、僕を帰れなくした。

と、野暮な長っ尻の気配を人のせいにしながら、店主のこうした粋な計らいがもう嬉しくて仕方ないのである。大好きな白づくりの塩辛も追加しちゃった。

ちゃんとお代をとってくれないと頼めないからと断って、もうひとつ福島の大七酒造の生酛(きもと)を、これは板長のお薦めでぬる燗にて。うわあ、柔らかくてなんて優しいんだ。

蔵太鼓の芳醇と甲乙つけがたく…。いずれにせよ、まだ品書には載ってない酒なのです。すんません。あ、そろそろ夕刻だし、せいろお願いします。
スポンサーサイト
● COMMENT ●
トラックバック
http://azumashikikuni.blog16.fc2.com/tb.php/571-ac64bd95
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)