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2020-02

7月12日のばあちゃん。

一族

今年は二の丑とやらで、土用の丑の日が二回ある。
味覚とは記憶だとつくづく思う。鰻と言えば思い出す情景がある。
3歳か4歳のとき、父がたの祖母に東京タワーに連れて行ってもらった。多分、僕が蝋人形館を見たがったと思うのだけど、その帰り路、祖母に何を食べたいかを訊かれて、僕はウナギと即答した。

ちゃきちゃきの祖母は初孫の所望が気に入ったらしく、鰻の専門店に僕を連れて行くと「中割れ」を注文した。物心ついたときから鰻は大好きだったけれど、ご飯、鰻、ご飯、鰻、と二段になっていて食べ切れないほど凄いのは初めてで、子供心に祖母の豪気さに感動した。

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父の実家は渋谷区広尾でお茶屋を営んでいる。祖母は九十過ぎても普通に店番に立っていた。僕が四十の半ばを過ぎてもこれまで通り正月にはお年玉をくれたし、平月なら小遣いをくれた。それも祖母なりの美学があって、誰もいないところに僕を呼び出し、こっそりと渡すのだった。僕もう四十過ぎですから、とどんなに固辞しても無駄で、そして口癖のようにこう言うのだった。

「ちょっと、あんた、あたしいくつだと思うの! もう九十よ!」

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数年前から少し物忘れするようになり、お年玉を二度くれようとしたり、用意した小遣いが見当たらないと言って涙ぐんだりするようになった。祖母の異常なほどの若さと美しさは永遠のような気がしていたので、そんな祖母を見るのは辛かった。

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広尾の商店街も昔ながらの店はすっかり少なくった。新しい店ができては消え、新陳代謝が著しい。人も町も年をとるのだ。


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祖母は今年95歳で、現在老健施設に入所している。
何カ所もの施設と病院を出入りしてようやく最近落ち着いた。
近頃では家族の誰のことも基本的には判然としないようだ。

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祖母は現在、どちらの手も閉じたままなので、自分で好物の「なめらかプリン」を食べることが出来ない。でも、七十五で認知症で亡くなった僕の母が最後の一年は読み書きはおろか、僕のことさえ分からなかったのに比べると、なめらかプリンおいしい!ときちんと商品名を読んでいる。

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それどころか、末娘の南町田の叔母が、祖母に教えてもらった百人一首を一首一首書き出して毎回持参するのだけれど、上の句を見た瞬間に下の句をそらんじているのには本当に驚いた。

祖母は2011年7月12日の僕を誰だと思っているのかな。
誰だか分かる、と訊くと、分かるに決まっている、という態度はするのだけれど。

僕の手からプリンを一個ぺろりと平らげたのを見計らっておいとましようとしたとき、介護士さんに向かって突然僕を指差しこう言った。

「まご、まご、ほっかいどうからきた」

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僕が心底驚いていると、さらに、今日はお金を持っていないので小遣いを渡せなくて申し訳ないと涙ぐむ。そしていつものように、今日は夕飯をどこで食べよう、何を食べよう、今日はウチに泊まって行けるのか、と尋ねるのだ。僕はすこぶる真剣に、今度東京タワーへ行って、鰻を食べようねと祖母につぶやく。


階下へのエレベータの扉が閉まった瞬間、涙が止まらなくなった。





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● COMMENT ●

東京タワー

読んでいただいて
ありがとうございます。

せつないですね・・・

自分もいつか行く道だけど


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