朝市の編笠屋順夫さん。

函館の朝市を歩いていて、地べたに座っているおじさんから突然スペイン語で話しかけられびっくりした。二十代の頃だ。ふざけてるのかと思っているとNHKのスペイン語講座のテキストとびっしり書き込まれたノートを取り出して、彼が本当にきちんと勉強しているのが分かってもう一度びっくり。学んでいたのはスペイン語だけじゃなかったのでは…。浜言葉丸出しでイカとっくりを商う、ねじり鉢巻のタコみたいな太ったおっちゃんには何度もびっ くりさせられた。

以降函館を訪れるたび、まずは朝市でこの人、編笠屋順夫(あみがさや・よりお)さんにご挨拶。何度目からか、自分の陣地に僕を招き入れて、一緒に何時間も店番させてもらうようになった。スペイン語に度肝を抜かれる観光客を逆の立場で鑑賞するのは愉快だった(写真は昭和56/1981年)。

あるとき突然やせていたので驚いたら、最近は自転車のロードレー サーになって身体を鍛えているのさという。カラフルなウェアやヘッドギアに身を包んで走行する写真も見せてもらった。それからしばらくして訪れたら、網笠屋さんがいつもの場所にいないので周りのおばちゃんに尋ねたら、急死しちゃったんだよ、と(写真は昭和62/1987年)。
今度ウチへおいでと言われて聴いていた住所を訪ねると、人気はなくひっそりとしていた。あんまり哀しくて、お弔いの花を立待岬から海に投げた。

昼過ぎの閑散とした、なんとなくもの哀しい朝市の情景は時刻ばかりが理由ではないだろう。久しぶりに編笠屋さんのことを想い出した。
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