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2021-04

心の被爆。

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21年前の8月15日朝、東京のアパートの玄関で靴をはいた所に電話が鳴った。盆休みをタイで過ごすために成田に向かう折りも折り。
今すぐ帰れと横濱の母。たった今旅立つんだからと不機嫌に僕。
珍しく母が強い語気で言った。「お父さん危篤だから」

横濱市金沢区の病院に駆けつけると、ほとんどの親戚が集まっていた。蝉時雨がうるさくて、それはそれは暑い日だった。

父は激しく肩で息をしていたが、もう意識はなかった。
直腸がんの手術をした父は 三ヶ月の宣告を受けたけれど、それから人工肛門の世話になりながら三年三ヶ月が経過していた。その夏、病状はそれなりに安定しており、歳月が緊張感を緩めさせ、危うく僕は人非人になるところだった。

もうだいぶ前から口からの飲食は許されず、胸に刺した管からの栄養だけで父は生きていた。それでもうだるような暑さの中、「乾き」を癒すための一日に数個のダイヤ アイスだけが、口に含むことの出来るすべてだった。

数日前に見舞った時、父は孫娘のような看護婦に懇願した。
「お願いだから、もうちょっと氷を、一個でもいいから…」
あの誇り高き男の媚びるような口調を生まれて初めて聞いた。
人間が口からものを取り込んで、お尻から排泄出来ることはなんと幸せなことだったのか。初めて知った。

海軍兵学校出の父は終戦記念日に意識不明のまま小康状態となり、一両日中は大丈夫であろうということで親戚は解散した。一番父を顧みなかった僕は、看病疲れの母を家に帰し、はじめて父の病室の隣のベッドに泊まることにした。

その未明に父は息を引き取り、僕ひとりだけが看取った。


今春、一年早い父の二十三回忌と認知症で亡くなった母の三回忌の法要を霊園のある神奈川県三浦海岸で営んだ。まだ原子力発電所の問題がこれほどまでになるとは誰もが思っていなかった。それでも地震や津波のショック、余震の恐怖から母のすぐ上の姉は法事を欠席したし、その後の放射能の行方や計画停電は、法要の実施そのものを思い悩ませるほどに重大事だった。

原子爆弾を二度も経験した日本で、終戦と盆が重なっていることの意味をこれまであまり考えたことがなかった。けれども終戦の日に父の危篤が重なり、翌日が命日になってその意味は否応なく深まった。

盆を故郷で過ごすことの意味。離ればなれの血族たちが、散財や渋滞を覚悟で一年に一度だけ同じ時間を過ごす意味。二十年前に北海道に移り住むまで、「故郷」とか「帰省」の意味すら分からなかった。北海道で初めて勤めた会社の初めての暮れ、上司に『ホシノくんは田舎に帰らないの?』と聞かれてようやく少しだけ実感が湧いたっけ…。


ヒロシマ、ナガサキにフクシマが加わったことで、 その惨状を「二度目の敗戦」と呼ぶ人がいる。身内の新盆に故郷 に帰りたくとも、その大切な土地に足を踏み入れることを許されない人たちがいる。 直接的な放射能汚染の恐怖はもちろん、さらに人災で故郷を喪失した人たち、直接被災していなくとも日本が、世界が受けた精神的な傷を、作家の五木寛之氏が “心の被爆” と呼んでいるのを聴いた。


北海道に移り住んだことで、残して来た土地、生まれ育った横濱は改めて「故郷」として僕の中に明確に存在するようになった。でも、一人っ子だった僕が両親を失ってみると実家=故郷という概念も焼失してしまい、ふたたび帰る場所をなくしてしまった感も強い。

ただ毎年のように見慣れていた横濱開港記念の祭り、何万発も打ち上げられる鎌倉や隅田川の花火の絢爛を恋しく思う気持ちが年々深まる一方で、小樽潮まつりは言うにおよばず、わずか1500発の地元朝里の花火をいじらしくやるせなく愛でるようになった自分がいる。


横濱も小樽も、日本中世界中の人々のそれぞれの故郷も、大切な人たちとの記憶と共に末永くあり続けて欲しいと願うのが、盆。





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