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2021-04

前略 古今亭 志ん馬 師匠 様。

前略 志ん馬 師匠 様。

志ん馬師匠a

僕が四半世紀以上お付き合いさせてもらっている噺家、古今亭八朝師匠。
重い持病を持つ師匠にいつも付き添っていた、
師匠の女将さんが二〇一〇年六月に急逝されたとき、
翌七月にまた僕の仕事でお二人は札幌に来る予定でした。

持病で酒を飲まない師匠の運転で、僕と女将さんが、
浅草や上野をはしごさせてもらって呑んだくれたりした。
ご夫妻とはそういう仲でした。

その女将さんのたっての願いで、二〇一〇年七月の仕事の際には、
合間を縫って三人で旭山動物園に行く約束になっていました。

そんな女将さんが突然亡くなって、僕は札幌の仕事延期の相談を持ちかけましたが、
八朝師匠は、弟弟子の貴方を伴って予定通り札幌に来てくれました。


前略 志ん馬 師匠 様。

貴方は女将さんのピンチヒッターとして、八朝師匠の付き人として、
そして、もう一人の真打ちとして、鮮やかに役割をまっとうされました。

女将さんが亡くなってひと月にも満たない八朝師匠に少しでも骨休めをしてもらいたくて、
僕は旭山動物園の代わりに、八朝師匠と貴方を連れて、定山渓に一泊しました。

貴方は、ほぼ僕と同じ年で、
酒好き女好きのかなり破天荒なお人柄でしたが、
昔の芸人さんにはこんな人がきっと多かったろう。
そう思わせるような存在感で、僕はすぐ大好きになりました。

その晩は女将さんの代わりに貴方とずいぶん酌み交わし、露天につかり、
破天荒さの狭間、八朝師匠が外した隙に見せた兄弟子への繊細な心遣いに、
僕はますます貴方を好きになりました。


前略 志ん馬師匠様。

志ん馬師匠b

実は今日は貴方の告別式でした。
一週間前に八朝師匠から訃報の連絡を受けたとき、
僕は膝ががくがくしました。声が震えました。

八朝師匠から訃報を受けたのは女将さんに続いて二度目でした。
あの夏、貴方は女将さんを亡くした八朝師匠を見事に支えたのに、
今度は貴方のせいで、またしても八朝師匠は、つらく切ない日々に埋没してしまう。

女将さんの際には通夜も告別式にも参列しましたが、
僕は先週も来週も上京しなければならぬ用事があって、
昨日今日、どうしても僕は貴方の葬儀に向うことが出来ませんでした。

ごめんなさい。本当にゴメンナサイ。

前略 志ん馬師匠様。

祝日、星の庵は通常おやすみなのですが、
こころが泡立つような感じがして家に居ることも出来ず、
いま店を開けています。でも普段はおやすみなので誰も来ません。

ごめんなさい。とりとめのない、意味の分からないことばかり書いて。
誰かに話しかけたくて、なぜか貴方自身に向って書いています。
身勝手ながら、聞いてくれそうな気がしたのかな。

定山渓で一緒に騒いで呑んだくれた翌朝、
貴方がこっそり東京の奥様に電話をしていたのを僕は知っています。
その女将さんにも、僕は以前浅草でお目にかかっていましたよね。

前略 志ん馬 師匠 様。

二ヶ月くらい前、八朝師匠に、
志ん馬さんとまたいろいろご一緒したい、とお願いしたばかりでした。
いくら身勝手で破天荒な芸人さんとはいえ、今回ばかりは度が過ぎやしませんか。

ごめんなさい。
すこしまいっています。

前略 志ん馬 師匠様。

貴方に献杯なんかしたくありません。

くそお、合掌。
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