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2021-04

真夜中のタクシー。

三月三十一日、すすきの午前三時。
年度末のあれこれ、人の去就などあって、風の色のボスと二人で、風の色の来し方行く末を肴に、久しぶりにゆっくりと語り合った。

ふと思い出して、そんな時間にある人の携帯電話を鳴らした。

その人は、ボクが横浜から北海道に移り住んで来て、最初にじっくり仕事をしたグラフィックデザイナーである。正確には「だった」。彼と、以前にも書いたあるカメラマンとのチームで、なかなか良い仕事だってしたのだ。

ボクがこちらに来た14年前、当時たずさわった雑誌の入稿(印刷所に原稿を納める行程のこと)はまだ完全版下で、写植屋さんの出番もあった。徐々にデータ入稿に移行していく過程で、アナログに頼る職種は淘汰されていった。写植屋という職人は、その筆頭。コンピュータの普及で業界には「自称デザイナー」が蔓延、写植職人は出番を失い、美しき分業は壊れていった。

1ミリの間に正しく何本直線を引けるか、きちんと烏口を操れるか。
なんてことが、これも本来職人であるべきデザイナーの基本だった。でもそんなことは、今は機械(コンピュータ)が勝手にやってくれる。そいつを操れば、とりあえず「デザインらしき」は、ちょちょいのちょい。なのだ。でも、当たり前のことだけど、コンピュータはあくまで道具であって。デザインするのはデザイナーであり、その磨き上げられた美的センスにほかならない。ここに、大いなる誤解が生じた。

新天地北海道で、僭越ながら非力なデザイナーが先行して目に飛び込んできた中で、そのデザイナーは基本のしっかりした、信頼に足る人物であり、職人だった。アーティストというタイプではなかったけれど。しかし彼は、時代の波に上手に乗ることができなかった。コンピュータの導入もさることながら、現場仕事の大半を任せていた、たったひとりの従業員が多くの顧客を引き連れて去っていったタイミングも相まって、あれよあれよという間に廃業に追い込まれた。

その深夜、ボクは何年ぶりかに彼と再会した。
彼の運転で小樽まで帰った。普通友人のクルマなら助手席に乗るけれど、僕らは後部座席に座った。彼の現職がタクシードライバーだから。

札幌で酒を飲んで、終電に乗りそびれてタクシーで帰宅する時、たいていはボクはすぐに眠りこけてしまい、現地間際に運転手さんに起こされるのが常なのだが、昨日は違った。途中でボスが降車して、彼と二人きりになり、目的に到着してもなお、ボクらは話し続けた。客の少なかったこの晩、小樽までの「大口」を得たおかげで、彼はこのまま帰還できるという。
「助かったよ」
と七歳年上の元デザイナーが言った。

かつてバリバリと仕事を共にした仲間を呼び出して「乗る」ことに、ボクはかなり抵抗があった。でも深夜の店で風の色のボスは、
「それは違う。今彼はその仕事をプロとしてやっているんだから」
と言い、その言葉にボクも納得して携帯を鳴らしたのだった。

かつての仕事の話はあまりせずに、主にそれぞれの近況の話をした。いやな話は避けたつもりが、気がつくと、なかなか思うようにいかないそれぞれの人生の話になってしまう。唯一二人そろって盛り上がった話題は、さきのWBCの王さんはじめ日本選手の働きについてだった。

タクシーの後部座席で、夜がしらじらと明けてきた。
サッカーよりも野球が好きな昭和の人がここにもいた。

三月は、去る。


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